世の中のことを考える(2008年10-12月)

12月23日 アサヒビールが社員に勧める休肝日

 病気にならないことは、代理のきかない親として、そして貴重な企業の戦力である社員として重要なことですが、このことをあまり意識していない方がひょっとしたら相当数おられるのではないかと思います。メタボは成人病につながり健康保険料が上がるからいけない、とか、仕事にも支障が出る、ということにとどまりません。ご家族がいれば家庭を支える最重要人物として病気にならないよう気配りをすることは大切なこと、社会人としての責任の第一歩だと思います。

 1124日号の日経ビジネスにアサヒビール社の「生活習慣改善キャンペーン」が次のように紹介されています。

@ 週2日とろうよ休肝日
A 禁煙にトライ
B 毎日体重を計ろう
C 毎日食べよう新鮮野菜
D 間食をやめよう
E 腹八分目を実行する
F 腹筋を鍛えよう
G エスカレータは使わない
H いい汗かこうよウォーキング

ビール会社なのに休肝日とは、「ビール会社だからこそアルコール意識が高い」とのこと。社内キャンペーンに参加し、目標達成した社員の減少体重合計は1115Kg、腹囲は1234cm、「自分の意志だけでは難しい節酒など、会社での取り組みが個人の生活習慣を改善する良いきっかけになっている」と記事の中で同社健保組合角藤さんはおっしゃっています。覚えやすいように3つにまとめると、「お酒はほどほどに、適度な運動、腹八分目」ということになります。

 さて、アサヒビールのキャンペーンでも新鮮野菜を食べようとは言われていますが、食べる中身は重要です。病気にならないためには食習慣が重要と言われていますが、ここ20年の日本人の食生活での問題は食物繊維不足、という指摘があります。食物繊維の不足は、「便秘や腸の病気、大腸がん、関節症、高脂血症、糖尿病といった生活習慣病の引き金になる可能性がある」とのこと。夜のつきあいから夕食内容は選べない、と言う方、重要なのは朝食と昼食である、ということになります。現在、日本の国民一人一日あたりの食物繊維の摂取量は15g16gといわれており、1950年頃には2023g摂っていたのが、食の西欧化とともに、穀類の摂取量が減り、逆に脂肪の摂取量が増えてきているようです。ではどの程度の食物繊維を補給すればいいのか。「日本人はあと5gぐらい食物繊維を積極的に摂れば目標摂取量の20gになる。5gに相当する繊維は、りんごで2個、ご飯では8杯くらいに相当する」という話であり、かなり積極的に食物繊維の摂取を心がける必要がありそうです。肥満に悩む方がダイエットのために穀類を減らすケースがあるようですが、炭水化物抜きダイエットの朝食、朝バナナでダイエット、なども栄養摂取バランスから言うと誤った考え方だと思います。

 伝統的な日本的食事は現在から考えると非常に健康的なバランスから成り立っているそうです。魚は心筋症の危険性を低減させるとか、お米と野菜中心の食生活は低い摂取カロリーで人間が生活するのに最適、とも言われています。そうだからこそ、日本人は摂取カロリーが過剰になった際に欧米人よりも遺伝的に糖尿病になりやすい、という説もあります。やせていても糖尿病に悩む方は多く、若くてもかかります。誤った生活習慣がもたらす病気は日常生活に重大な影響を及ぼすものが多いのですが、その中でも糖尿病には注意が必要です。ガン、心臓病、脳卒中は、3大生活習慣病と呼ばれ、日本人の死亡原因の上位3位を占めています。しかし、心臓病と脳卒中は、糖尿病をまず発病した後に併発している人が多いというデータもあります。

 糖尿病の危険因子には次のようなものが上げられています。@両親の罹患歴 A加齢 B肥満 C運動不足 D血糖値上昇 AからDは相互に関係していますね。年をとって太りはじめ、運動不足になって健康診断で血糖値や高血圧、高脂血症だと注意された方、これにストレスが加わると本当に要注意です。糖尿病には自覚症状があまりなく、最悪の場合は合併症を引き起こし死に至る病気のため、サイレントキラーとも呼ばれています。糖尿病の怖さはこの合併症にあり、中でも網膜症は、日本人が成人になってから失明する原因の第1位となっています。網膜の血管が脆くなりやぶれ、それが出血することで起こる症状です。自覚症状が乏しいために放置され、手遅れになることが多い病気です。最近、目が充血気味だ、という方で、生活習慣に気になる点が多い方、原因を探るためにも一度糖尿病専門医に診察してもらってください。介護問題が最近話題になっていますが、生活習慣に気を配らなければ、失明などを含め私たち自身が介護対象者になる危険性が高まると言うことだと思います。

 冒頭で紹介したアサヒビールの「お酒はほどほどに、適度な運動、腹八分目」に「魚野菜中心の朝・昼食」を明日から生活習慣にして、病気にならないことを心がけること、これが家庭人としての責任の基本だと思います。

2008年12月12日 日本企業が持っている強みの活かし方

 シャープは、2010年の稼働を目指している大阪堺工場で、液晶パネルだけでなく、材料など関連業界を含め、総投資額約1兆円規模の「21世紀型コンビナート」の創出を目指していると報道されています。液晶パネル工場をシャープとソニーの合弁会社として、共同で立ち上げを図ることで両社は合意しているのですが、こうした企業と業界も超えた協力は、米国ではあり得ない企業コラボレーション。もともと、製造業での日本企業の擦り合わせ技術は世界一、 日本発世界への技術になる可能性があります。

 外資系企業と日本企業の違いについても、次のような違いが見られます。

■ 講演会、前から埋まるか後ろから埋まるか 日本企業は後ろから、米国企業は一番前の真ん中から埋まる。

■ 仕事の指示 明示的か暗示的か 「あの件、どうなったかね」「この案件は、君よろしく頼むよ」で通じるのが日本。

■ 何を持って良い文章とするか 誰が読んでも同じように理解できる文章が良い文章。しかし日本では行間を読む、筆者の気持ちを忖度する、ということも重要とされる。米国ではマニュアル化、業務分掌のドキュメント化が業務計画の最初に実行されること。

■ 説明会では質問がたくさんでるか 日本人は大勢の他の皆さんの貴重な時間を無駄にしたくないことを考えどうしても質問が少なくなる。米国人はこのようなことは考えないために日本人の美点が米国だと評価されないという典型例 。

 米国と日本、この二つの国は比較をすると良い点悪い点がお互いによく分かり、とても面白い相違があります。米国で現在起こっている住宅金融を発火点とした金融バブル問題やSOX法が生まれる背景となったエンロン社・ワールドコム社での経理不正問題、そして日本社会や企業で問題になっている数々の事件・事故の原因を考えるための非常に良い視点が見えてくると思えます。日本で起こっているいくつかの問題や事件を最近の新聞報道などから拾ってみます。

日本社会での問題(知っているのに知らぬふり) 

  ■年金標準報酬月額の詐称など社保庁と企業との相互不正

  ■地方自治体での長年の赤字体質放置

  ■国立、公立組織での人件費、経費の無駄放置

企業・組織レベルでの問題(経営者、組織トップが認識した上でのほころび)

  ■汚染米と経営者が知った上での転売

  ■販売拡大のための確信的食品産地偽装

  ■建設業界での談合禁止後の談合

  ■教育委員会ぐるみの教員試験不正

 こうした問題などの遠因にとして次のような米国と日本の教育の違いから見えてくることがあるのではないでしょうか。米国でのK-12(幼稚園から高校3年生)教育で大切なことは次のようなこととされています。

「自発性」(Initiative 何をなすべきなのか自ら考えつくこと
「創造力」(Creativeness) 人と異なることを思いつき、違うという多様性への寛容を示す
「競争」(Competitiveness) 異なる価値観を持つ人との議論をとおして勝者になることの重要性
「貢献」(Contribution) 勝者、強者は敗者、弱者へのリーダシップを発揮、組織全体の方向性を決め、その方向に組織全体を進ませること

一方、日本の小中学校で重視されていることは

「自発性より遵法性」 言われなくても決められたことはやること
「創造力より協調性」 一人だけで違うことをせず、他の人とうまく団体行動ができること、ルールは守ること
「競争より協力」 自分だけ良くなろうとせず、できない人もできるように教えてあげること
「貢献より道徳」 人に迷惑をかけず、反社会的なことはしないこと

先送りできることは自分では解決しない、人の組織のことには口出ししない、苦情がでなければいい、法律は守ればいい、指示されないことはしなくてもいい、他の人がやらないことは自分もやらない、こうした日本的組織での行動の遠因が見えてきませんか。

・長いものには巻かれろ。

・臭いものには蓋。

・出る杭は打たれる。

・喉元過ぎれば熱さを忘れる。

など、昔から言われることわざにも、日本人独特の行動特性がよく表われています。

 このような日本人と米国人の教育背景、行動特性などの違いは悪い面だけではなく良い面にもあらわれています。日本人も米国人にも多様な人々がいて一概にはいえないのですが、日本的組織と米国的組織それぞれの強みを整理すると、

     日本的組織                                      ←→                     米国的組織                           

技術志向

マーケティング志向

組織的運営とチームワーク

リーダシップと目的志向組織運営

長期的視野に立った投資

即時効果の最大化投資

高い教育水準と現場担当者の意識の高さによる高品質サービス

誰にでも理解できるマニュアルと均質サービスによる大規模サービス展開

職務拡大意識と部門間業務の相互補完

職務機能定義の徹底と職務責任明確化

長期的雇用と行き届いた企業内教育

キャリアアップ志向のジョブホッピング

 日本人と米国人の特徴は次のように整理できると思います。

         日本人                                    ←→                         米国人                       

働くのは経済的報酬と奉仕が一体化

新天地開拓のためには最大限の努力

災害時にも暴動は起きない

強者は弱者の保護に努める

モラルレベルが高い

自己の信ずる倫理の尊重

国際会議で積極的に発言しないため評価が低い

米国的価値観を他国に押しつけるため評判が悪い

リーダが育ちにくい

上に立てば王様、部下は奴隷、チームワークの形成が難しい

社長が誰になっても社内派閥は継続

社長が誰になるかで反社長派は社外流出

米国での経済バブル問題、日本社会と企業の問題、それぞれ一朝一夕には解決できない問題であり、両者の弱みの克服は簡単ではありません。しかし、現在の世界的経済不安を考えると、企業の生き残りをかけたグローバルな企業間連携や再編などにより経済を安定させることが、一定の雇用確保や消費者心理安定につながり、企業が社会にできる貢献だと考えられます。80年前の世界恐慌では米国発の経済混乱を受け止められる国がなかったために世界的恐慌が発生してしまいました。現在は米国、ユーロ経済圏に日本を初めとするアジア諸国、BRICSその他の発展中の国々があり当時とはずいぶん状況が異なります。さらに、国際間のコミュニケーションが進み、国同士の相互理解、特に日米間の理解は80年前に比べると相当進んでいると思います。こうした時にこそ日米の強みと弱みを相互に認識した上で協力すること、日本企業と日本人が今後米国企業、米国人と協力して世界に貢献できるヒントがあるのではないかと感じます。

2008年11月23日 新型インフルエンザ、本当に流行るのか

 関東地区直下型大地震、温室効果ガスによる地球温暖化、そして鳥由来ウイルスによる新型インフルエンザなどに対して「本当にそれは起こるのか」という疑問を持つ方がおられます。大げさに危機感を煽り立てて儲けたいコンサルタントや、予算が欲しい大学の先生が大騒ぎしているのに政府や企業が乗せられているのではないか、という疑問です。

 疑問1 ワクチンや抗インフルエンザ薬、消毒技術などが90年前のスペインインフルエンザ流行時より格段に発達した現代でも世界流行は本当に起こるのか。                    

過去300年を振り返ると100年間に平均3回インフルエンザの世界流行が起きていることが分かっています。直近の世界流行は1968年の香港インフルエンザ、40年が経過しており、過去のパターンから見るとそろそろ起きる頃です。初めてH5N1ウイルスが見つかったのが1997年香港、それから11年が経過、オオハクチョウなど野鳥での感染も確認され、鳥インフルエンザウイルスが変異を続けていることが分かっており、いずれ人類でも人から人に感染するタイプが発生することは確実といわれ、いつ発生するかだけが問題といわれています。発生したインフルエンザ 、致死率は0.1%から5%程度までの幅があるといわれていますので、ウイルスのタイプの違いは人類にとっては多大な影響があります。ワクチンは発生後にしか製造できず製造開始後6ヶ月程度経過しないと国民への接種ができないこと、抗インフルエンザ薬には耐性を持つウイルスがすでに発生していることから、現在でも新たなウイルスによる感染症に罹患しない技術は獲得できていません。スペインインフルエンザ流行時のウイルスタイプはH1N1でしたが、今の脅威はH5N1やH7N7など別のタイプであり、ウイルス は変異しています。90年前より状況が悪いのは飛行機や地下鉄などの大量高速輸送手段が発達し、感染が高速大量に拡大することで、発生が止められないとすれば、感染拡大を止める手段はすぐにはないのが現状です。90年前よりも良いことは、ワクチン製造技術が発達していること、抗ウイルス薬が開発されていること、消毒技術が進んだこと、感染経路が分かっていることなどです。しかし、こんなに科学技術が発展しているのに、流行初期の新型インフルエンザ対策は抗ウイルス薬を服用し自宅にこもって流行をやり過ごす、もしくは罹患して自力で回復する以外に有効な対策はないと言うことなのです。

 疑問2 社会機能維持をする医師や技術者などに接種するという流行前(プレパンデミック)ワクチンは新型インフルエンザに効くのか。                                          

効いて欲しいが効かないかもしれない、というのが現時点での見解です。流行前ワクチンとして準備されているものはA型インフルエンザのH5N1ウイルスを想定、ベトナム株、インドネシア株、安徽株を接種するというもの。プレパンデミックワクチンでの問題点は、(1)季節性インフルエンザワクチンにおいて100万分の1程度の確率でおこる副反応が、プレパンデミックワクチンでも起こってしまうか (2)パンデミックが始まるとパンデミックウイルスは季節性インフルエンザウイルスと同様に変異するか、の2点です。プレパンデミックワクチンの接種期間中に副反応が一定の確率以上で発生すると接種が取りやめられる可能性があり、また、A型H5N1以外のウイルスによりパンデミックが発生した場合には効かない可能性もあります。それでも、同種のウイルスに効果が期待できること、流行後ワクチンの接種効果が早まるブースター効果が期待できること、他に予防手段はないことから、日本では社会機能維持に必要な業務、業種に従事する方には、プレパンデミックワクチンを接種していただき、パンデミック時にも最低限必要な社会機能を維持する、という政府方針がでています。現時点で用意されているプレパンデミックワクチンは 全国民分はありませんので、社会機能維持業者に指定されていないほとんどの国民は流行前にはワクチン接種はできないと思います。季節性インフルエンザワクチン接種は是非受けた方がいいと思います。

 疑問3 新型インフルエンザが世界流行して、もし自分や家族が罹っても、日本では医療が発達し、薬もあるのだから死ぬことはないのではないか。                             

致死率は0.1%〜5%と言われていますから罹患者全員が死ぬわけではありませんが、現在鳥インフルエンザで死者を出している国では予防、撲滅に全力を挙げているのに多くの死者を出していることも事実です。元小樽保健所長外岡さんは、「スペインインフルエンザ流行の1918年〜1920年にかけての発病率は42%、今回も同様の発病率と考えれば4800万人が発病します。致死率(死者/発病者)が0.1%なら死者は5万人、5%なら240万人が死ぬことになります」と発言されていま す。ウイルスのタイプによって相当な差があることが分かります。タミフルやリレンザといますインフルエンザ薬を罹患後48時間以内に服用することで症状の悪化が抑制できる、とされていますが、確かに現在までにH5N1で亡くなった方に十分な薬品が提供できていたのかどうかは疑問であり、正しい薬の服用で流行は抑え込めるかもしれません。一方、ウイルスは変異を続けており、現在のH5N1タイプがそのままの形で流行するとは限りません。90年前のスペインインフルエンザ流行時にはH1N1というウイルスにより、全世界で人口15億人のうち4000万人が死亡しました。アフリカ大陸での死者が殆ど勘定に入っていなかったと言われており、その後の後遺症による死者も入れると1億人を超える人類が死亡したとも言われています。15人に一人、死亡率は6.7%にもなります。致死率は罹患者のうち死亡する確率、死亡率は対象人口のうち死亡する確率です。新型インフルエンザの罹患率の想定は厚生労働省によると25%、致死率想定が2%ですから日本では3200万人の方が罹患し、64万人が亡くなることになります。大変な数です。さらに、流行の波は3回程度くると言われていること、ウイルスは変異すること、全人口の7―8割が罹患するまで流行は治まらないと言われていること、流行型に対応したワクチンが製造され接種できるまでには3ヶ月から半年以上かかること、などを考えると、罹患しないですむとは考えず、罹患した場合の対策を講じた方が良いと思われます。罹患し、抗インフルエンザ薬を服用して自力で直すことがもっとも良い対処法なのではないかと言うお医者様もおられます。

 疑問4 それでは、どんな準備も無駄ではないか                                    

準備しないとするとでは大きな差が出ると考えられます。個人ができる準備には、上記季節性インフルエンザワクチン接種以外にも次のようなことがあります。

@自宅に2週間からできれば2ヶ月分の食料、水、簡易トイレ、その他自力での生活を可能とする用具を用意しておく。

A消毒薬、マスク、ゴーグル、手袋などのインフルエンザ対応の薬品類、感染防止用品を用意する。

B政府などの情報を読み、実家、家族同士、ご近所同士で新型インフルエンザについていざというときの連絡方法や対処方法について話し合いをしておく。

流行がマスコミで報じられてからでは、上記備品は売り切れ続発で買いそびれる可能性があります、今のうちに準備しておいてください。

また、企業でも、何の対策もなく、流行時にも出社を続ける企業は、流行が治まったときの出社率・操業率でみると対策企業との間に大きな差が出ると言われています。これはスペインインフルエンザ流行時の米国で、学校の早期閉鎖、公共集会の中止、患者の分離施策を実施したセントルイス市としなかったピッツバーグ市やニューヨーク市などでは死者数に大きな差が出たことから言われている「早期患者隔離・分離」施策が有効である、との主張からきています。国立感染症研究所と早稲田大学の研究チームが2007年に実施した意識調査では、「新型インフル発生でも…外出するが過半数」との結果もあり、個人の意識、企業の対応、まだまだこれからだ、と言うのが現状のようです。日本政府、厚生労働省はこの9月から10月にかけて矢継ぎ早に新型インフルエンザ対策を発表してきています。

家庭を守る責任者としても事前にできることを考えてみてください。自らの行動パターンと保有資産などを評価した上で、最悪のケースまで想定して、できる準備をしておくことは、個人にとっても重要なことだと思います。

2008年11月15日 世界の金融混乱。日本人として考えること

 米国ではサブプライムローンの債券化などにともなう損失から金融業界の大再編がおこっていますが、これ原因は異なるものの日本同様のバブル崩壊と現実の経済力以上の投資をするなど無理をしたツケを支払っているとも考えられます。原因は米国発ですが、日本のバブル崩壊のあとにおこったのが失われた15年を形成したデフレ、こうしたことが世界規模でおこらないように各国が協調・協力しなくてはいけない事態でしょう。経済問題が泥沼的様相の米国、その余波をまともにかぶっている欧州金融機関に比べると対応策を考える余裕のある日本の企業は世界経済の中での日本経済の役割についてよく考えてみる良い機かもしれません。

スイス・ローザンヌにあるビジネススクールIMDが毎年発表する世界経済競争力、ランキング好きな日本人としては気になる数値で、1989年の第一回調査では1位だったのが、今年日本は22位です。

          1989 RANKING                      2008 RANKING
                     Rank Country Score
1 Japan 100.0     1 USA 100.0
2 Switzerland 98.5     2 Singapore 99.3
3 USA 92.7            3 Hong Kong 95.0
4 Canada 87.3         4 Switzerland 89.7
5 Germany (FRG) 85.0    5 Luxembourg 84.4
6 Finland 81.5   6 Denmark 83.9
7 Netherlands 81.2   7 Australia 83.5
8 Sweden 80.5    8 Canada 82.9
9 Norway 79.2    9 Sweden 82.5
10 Australia 77.7      10 Netherlands 80.5


1990年代から21世紀にかけて、今や「失われた15年」とも言われていますが、何が失われてしまったのでしょうか。原因分析は盛んに行われていますので、いろいろな関連サイトをご覧いただければと思いますが、日本が競争力低位に位置づけられた項目には「そうだよね」と思わされる項目がならび、起業家精神(53位)、海外の考え方への開放度(49位)、それと国際経験(47位)、社会の枠組みは55カ国中51位です。2008年の調査は米国がサブプライムで苦しむ前に行われたので1位を維持できたと分析できますが、住宅ローン破綻だけではなく、多くの移民や貧富の格差、社会保険制度の崩壊などの諸問題も抱え、経済バブルと社会・経済的格差が支えていた経済競争力とも言えると思います。 

「失われた15年」以前に有名だったジュリアナを一日だけ復活する、というイベントが先日あり、バブル全盛当時通い詰めていた人がお立ち台で踊る、という報道がありましたが、「あれはいったい何?」という、当時を実感できない世代もいるでしょう1989年末の東証株価指数は38000円台、夜の町には人があふれて、夜中の12時にタクシー待ち2時間など、経済の成功体験として忘れられない世代の方もいると思います

大学などの研究機関による日本研究レポートが出され、“Japan as No.1”という本が出版されたのもこのころでした。“Japan is No.1”ではないことに気づいていた方も多いと思いますが、「天然資源が少なく島国であるがためのさまざまな制約があり、国土が小さいにもかかわらず、日本は課題をうまく処理している。アメリカをはじめとする他の国々も、日本から教訓として得るものが何かあるはずだ」というのが著者ボーゲル教授の主張、「戦後、日本人がアメリカ人から学んだときの熱意でアメリカ人もまた成功した日本人から学ぶべきだ」ということで欧米企業から、成功している日本企業に学ぼうと多くの企業訪問がありました。

また、あのバブル全盛ような時代が到来するのではと期待する方もおられるかもしれませんが、戦後日本の経済成功は日本の奇跡、奇跡は一度。21世紀以降の経済競争力の低迷は、変化し続けている状況に対応し続けることが重要、ということを日本企業が忘れ、傲慢になっていた一時期があったからなのかもしれません。

世界の中での日本、バブル期の20年前と比べて何が違うか、個人的な感想ですが、

1.エコノミックアニマルの住む異質な国から映画「もののけ姫を産んだ普通の国へ
2.日本製品・文化が世界の町・家庭へ浸透−NintendoからKikkomanWasabiまで
3.ボランティア精神と活動の拡大−経済支援から井戸掘、教育、医療支援へ

変化はこれ以外にもたくさんありますが、昭和の時代から平成バブル期までに多くの日本人が追い求めていた経済的な満腹感以外にも重要なことがたくさんあることを、阪神淡路大震災や平成不況、国連軍による中東への派兵とその後の復興、世界からの賞賛と非難などを通して、現在では多くの日本人は感じているのではないでしょうか。

20年前、一部の外国の方は知っていた日本アニメや広がり始めていたSushiレストラン、SONYHonda以外にもある高品質日本製品が、現在ではどんな国に行ってもそこら中の町や家庭に入り込んでいるという事実があります。さらに書き物ではなく実体のある日本人とそのプロダクトを通して日本という国と企業を多くの世界の人が知りました。欧米諸国並みの普通の国になった日本の企業と生活の現状に、今後この上何を積み重ねていきたいのかを私たちは考える時だと思います。これが企業にとっては社会的責任であり、個人にとってのWLBなのかとも考えます。

 日本という国も過剰なエネルギー消費と地産地消を忘れた食料の大量輸入でメタボ体質になっているとも考えられます。また、高度成長で忘れてしまった質の向上のために自己投資、つまり、常に株主資本最大化を目指す米国企業、米国経済を追っかけてき経済成長第一主義を考え直し、成熟した国の良いところを見習うことをするときかもしれません。

2008年11月8日 突然訪れる「介護」 、育児のような楽しみはありません

  育児と介護、現実には育児とは正反対の覚悟が必要です。介護の育児との大きな違いは、

1.悲しい。 2.突然くる。 3.終わりが見えない。

共通点は、

■ 時間と場所の制約がもたらされる ■ 24時間365日対応が必要■ ある時点では施設に預けることも可能

介護のつらさは経験者にしか分からない、とも言われ、未経験の方は「自分には無関係」、若い方には「遠い将来の話」と感じられるかもしれません。80歳以上になると健康な人でも若い頃に比べれば体の不自由が生じてくるもの、親がその年齢に達する世代は会社では管理職であったり、組織の中枢をになう方も多いと思いますが、「介護」の現実はいつ誰に訪れるのか予想がつきません、まさにお互い様の精神が必要です

 精神科医でもある帚木蓬生さん著の認知症老人の介護をあつかった小説「安楽病棟」があります。この本はドキュメンタリーではなくミステリー小説であり、延命治療と積極的安楽死を取り扱ったお話なのですが、前段でこの病棟に入った人々の人生が紹介され、その人々のその後の病棟生活について看護大学を卒業した看護士の目を通して見たものとして語られます。介護されている老人達はさまざまな人生を経てきており、認知症になったその人の今までの人生の意義と人の尊厳について考えさせられます。この本の中で病棟の先生がお見舞いに来た患者の家族に次のように話します。「初老は40歳から始まると考えてください。つまり老いという非常に緩やかな坂を下りはじめること、これが誰にでもおこる老化現象で、その坂の先では体や精神が今の皆さんのように思うようにはいかず、場合によってはいうことをきかなくなるという状況になるのです」。自分も将来は介護の対象になるということです。

 「安楽病棟」の若い看護士は、介護経験を通して数十年前と現代の介護を取り巻く状況の違いについて次のように分析をします。

1.昔は頭脳と体がほぼ同時に老衰を迎えた。ここ数十年で医療技術が進歩し、寿命が延びて体は長生きになったが頭脳はその体の長寿についてきていない。脳医療の進歩が重要である。
2.時代の変化が早くなり、親と子、孫の価値観が甚だしく違うようになってきたため2―3世代同居が難しくなってきている。昔は時の流れが緩やかであり、価値観の相違による世代間の相克も今ほどには顕在化していなかった。
3.上記2の結果として、世の中に沢山いる高齢者に若者が気を配らなくなってきている。同居する老人がいれば町で出会った高齢者に席を譲る、手を引いて交差点を渡るなどの行為や思いやり自然に出てくるはず。

確かに、核家族化とか都市集中による住宅事情変化などという新聞記事に書かれていること以外にこうした側面があることに気づかされました。

もう一つは人間の尊厳問題です。介護が必要となる状態には誰でもがなるわけではありませんが、身体的な問題とともに精神面での問題が原因となるケースがありますその一つがいわゆる認知症です。症例は本当に様々で、進行度合いや既往症、その方の性格、家族との関係などが組み合わさって対応には個別のケアが必要とされるのですが、多くの老人を同時に預かる施設としてはどうしても一様な対応にならざるを得ないのが現実です。「目は疑り深く、耳は信頼を呼ぶ」という認知症の例もこの本ではあげられています。目は良くて耳が悪い老人は同居人を疑う傾向があり、耳は良く聞こえて目が不自由な方は同居人を信頼する、というもの、ありがちな話です。自宅での介護の苦労も、教科書通りには行かないこと、またこうした個々の状況が突然変化して家族手に余ってしまう、というところにあります。

 しかし、こうした認知症といわれる老人にも人間としての尊厳が必要であり、実際に面倒を見ている家族の気持ちは大きく揺れ動きます。「安楽病棟」ではオランダにおける安楽死への対応の説明もあり、安楽死をオランダではLife terminating(生命終結行為)と表現、重篤認知症患者に適用するというもの。ここまで進んでしまって良いのかという問題提起であり、実際に介護をされている方には身を切られるような話だと思いますが、この先は本を読んでいただければと思います。

2008年10月30日 この日本語、気持ち悪くない?

  若者言葉やコンビニ・ファミレス(バイト)語など、気になる日本語の話題が報道されることがありますが、セミナーなどで 発表するのを聞いて「今の表現なにか変だなあ」と感じることがあります。言葉に「乱れ」という概念はなく時代や地方特性に沿った「揺らぎ」があるので、若者の言葉に違和感があるからといって「乱れている」「美しくない」と言った批判は的を射ていない、との意見もあります。しかし、プレゼンテーションとは話し手と聞き手とのコミュニケーションであるとすれば、聞き手に様々な世代や多様な方々が混在していることが想定できるセミナーの場合、方言やなまりは別として、できるだけ聞き手が違和感を持たない表現を使うことにより、プレゼンテーション本来の目的が達成できると思います。

 プレゼンテーションで聞くと気になる表現として、最近では次のようなものがありました。

■・・・だったりします。→ 正: ・・・です。

■私的には… → 私は…と考えます

■私って・・・とか好きじゃないですか。→正: 私は・・・が好きです

■「〜とか」「〜と言うか」「〜みたいな」「〜的な」の多用

■「私は〜する人なので」「している私がいます」といった自分を第三者に見立てた表現

総じて言いたいことをぼかして表現したい、間接的な言い回しにしたい、という意思があるようなのです。企業製品やサービス、姿勢を伝えるプレゼンテーションでははっきりとした表現でアピールすることが必要なケースが多いと思います。

 「・・・じゃないですか」に対しては気にならない方もいるかもしれませんが、「悪くないじゃないですか」→正:「悪くないと思います」であり、女子高生特有の言い回しでは「悪くなくなくない(語尾上げ)」となり、おじさんにとっては「超気持ち悪い」表現と文法的には通じています。昔の京都の町民が新しく入ってきた武家たちとの摩擦を避けるために、非常に間接的で持って回った表現を磨き上げてきたのが京都弁、とも言われます。「ちょっとそこのお皿とってくれはらしまへんやろか」→「ちょっと」で間をとり、「とってくれはる」丁寧語、「しまへん」で否定型、「やろか」で疑問型、これも「悪くないじゃないですか」と通じるものがあります。対人対応では間接表現が有効な場合もありますが、企業として主張をする、製品やサービスをアピールをするというケースでは、あえて間接的な言い回しにする必要はないと思います。

 また、ここ数年来よく耳にする表現では、

■不必要な「語尾上げ」

■正しくない「ら抜き言葉」:食べれる→正: 食べられる

■全然大きい →正: 全然小さくない、非常に大きい、明らかに小さくない

■全然平気 →正: 全然問題ない、全然構わない

■ご利用できます→正: ご利用いただけます、ご利用になれます

友達同士、プライベートな会話では言葉の揺れ、として「全然平気」であっても、公の場でのプレゼンテーションでは避けた方がよい言い回しだと思います。

 外来語の多用やイントネーションでも気になることがあります。本文章でも使っている「プレゼンテーション」「コミュニケーション」は「発表」「通信・連絡」などの日本語では適切語ではなく、英語をカタカナ語にして使っているのですが、外来語の使いすぎは鼻につく場合がありますので気をつける必要があります。短い語で、使い慣れてくると本来の英語イントネーションが日本で使われる間に平板になる傾向があるようで、Record コード  File ファイル これらには違和感はないと思いますが、Club → クラブ 日本語でも 彼氏 → カレ など、人によっては違和感を持つケースもありますので、外来語の使いすぎには配慮して、イントネーションにも気をつけることが必要と思います。外来語表記として「コンピュータ」なのか「コンピューター」なのかは見解が分かれるかもしれませんが、同一話者、同一セミナーでは一貫性が必要だと思います。

 プレゼンテーションではめったに聞くことはありませんが、展示会などでは有名になったバイト語を使う社員もいます。

■ご注文の品はハンバーグセットでよろしかったでしょうか。→正: よろしいでしょうか。

■ハンバーグセットのほうお持ちしました。→正: ハンバーグセットをお持ちしました。

■こちらがデザートになります。→正: デザートでございます。

2000からお預かりします。→正: 2000円頂戴します。

■ただ今30分ほどお待ちいただく形になります。 →正:  ただ今30分ほどお待ちいただいております

出所元は米国で作成されたファミレスマニュアル“wouldcouldbecomefrom”の直訳だ、という見解や方言からきているとの意見がありますが、きっちりと話すことで失礼にならないようにあえてぼかすような表現にする、これらを常識として広げてしまった側の(大人の)責任もあります。

 政治家の先生たちが多用する、「させていただく」も気になります。へりくだっているようで、「断固としてこの政策を実現させていただく所存です」と固い意志を示すケースもあります。誰かの許可を得て何かを「させていただく」わけでもないケースに、単に「する」の代用として「〜させていただく」と言うことには、形式的にではあるけれども反対する余地を残した言い方をすることで、高圧的な印象を薄めるという効果を持たせる、という意識が働いているわけで、多用されると国民は鼻白みます。

 新人や若い方、というより少し経験を積んできて慣れが出てきた発表者こそ注意が必要になるのだと思います。プレゼンテーションの目的は話し手と聞き手とのコミュニケーションであると考え、より良いコミュニケーションを目指して多くの聞き手が違和感のない聞きやすい表現で話す努力をすることは重要だと思います。

 

ページトップへ

今までのコンテンツ

Copyright (C) YRRC 2009 All Rights Reserved.