R&D in 2023



ゼミ生の研究HOME2024年Aチーム

川野克典ゼミナール 2024年Bチームの研究
メンバー:増田彩乃 住友晴哉 内藤菜帆 武田茉也

私達Bチームは、中期経営計画について研究をしています。
一番下に私たちの成果物である中期経営計画事前チェックリスト「PAMP」(Pre-CHECKLIST FOR ADVANCED Mid-TERM PLAN)を掲載しました。

中期経営計画とは、3年から5年を策定対象期間として、環境の変化を予測し(環境分析)、ミッション、ビジョンを達成するために中期目標を設定し(中期目標設定)、その実現のために事業の位置づけ(全社戦略) と資源の配分方針(戦略事業策定と資源配分)を明確化して、事業の構造を改革する(事業構造改革)と共に、競争優位性を確保するための達成手段(戦略策定)を組織別あるいは事業別にまとめた計画です。

一般社団法人 日本IR協議会の第29回「IR活動の実態調査」の結果によると、中期経営計画については、策定し公表している企業の割合が70.0%、策定しているが非公表が14.9%、策定していないが7.8%で、全体の84.9%の企業が中期経営計画を策定しています。

私たちは、中期経営計画の目標達成状況の調査を行っています。正確な数字を発表できる段階にはありませんが、中期経営計画の目標が未達に終わっている企業が多いことが明らかになりつつあります。
私たちは、達成となった企業、未達成となった企業に分類した上、中期経営計画書の内容の分析を進めます。現時点では、達成となった企業でも、目標の水準が低いため、達成となった企業も少なくないことが分かっており、目標達成のみならず、過去の実績値との比較も必要であると判断するに至っています。

私たちは、上場企業の中期経営計画を調査し、中期経営計画の策定が企業の経営成績と財政状態の向上に寄与しているか否かを統計分析を含めて、調査し、目標達成ができる中期経営計画の要因抽出に挑戦するつもりです。

私たちの調査の結果、金融庁と東京証券取引所が公表した「コーポレートガバナンスコード」の影響もあり、企業が積極的に中期経営計画を発表するようになりましたが、中期経営計画で真剣に企業変革に取り組む企業と、IRの一環として、中期経営計画を公表し、その目標値の達成自体が目的となっている企業があるという仮説が設定できました。後者の場合、中期経営計画最終年度の目標値の水準も低く設定されています。

夏休みに立正大学、法政大学とインゼミ大会を開催しました。指摘を受けた点についての見直しに取り組みます。


企業の皆様に中期経営計画に関するインタビュー調査の依頼し、20社の企業からご快諾を頂きました。夏休みの期間中に訪問及び遠隔方式でインタビュー調査を行って、仮説の検証を目指しましたが、残念ながら、立証には至りませんでした。そこで軌道修正し、第2仮説として、中期経営計画の内容を事前チェックすることにより、内容の質を向上させれば、中期経営計画の終了時点で掲げていたROEの目標値の達成度は向上するを作成し、研究を進めています。

夏休み中に中期経営計画に関するインタビュー調査を行った企業訪問の一部をご紹介致します。(企業側の了解を得て掲載しています。)

株式会社大本組

株式会社ミツバ

関西電力株式会社

ヤマハ株式会社


【私たちの研究の要旨】
私たちのこれまでの研究成果を整理します。最終的には変更される可能性があります。

私の研究の目的は、日本の上場企業の中期経営計画の目標達成度を向上させ、企業価値を向上させて、日本経済を活性化することである。

・中期経営計画の定義は、諸説あるが、私たちは、中期経営計画とは、経営ビジョンと会社年度方針との中間に位置付けられる。自社の3~5年後のあるべき姿、またはその実現に向けたシナリオを描写したもの、第1期、第2期、第3期と段階を踏んでいくことで長期的なビジョン達成を目指す計画と定義する。

・昨今、中期経営計画が注目される理由に金融庁と東京証券取引所が発表した「コーポレート・ガバナンスコード」がある。これにより、上場企業は、株主との対話の一環として、中期経営計画の公表が求められることとなった。

一般社団法人日本IR 協議会(2022)の調査によると、このIR実施企業1,047社のうち、中期経営計画の策定・公表している企業割合は約70%、策定しているが、公表していない企業割合は約15%で、約85%の上場企業が中期経営計画を策定している。その他の先行研究から、味の素のように中期経営計画に縛られずに、別の手段で中期経営計画の代替物を策定している企業も存在すること、企業におけるガバナンス要因が中期経営計画の開示、説明資料のページ数、売上高目標の設定に影響を与えていること、財務指標以外の非財務指標に着目する必要があるこもわかった。

・中期経営計画に縛られずに、別の手段で代替物を策定している企業が存在する。中期経営計画を策定しない理由は、予測しにくい環境で数値を作り込み過ぎると計画の意味が薄れてしまう点や、外部環境の変化を適切に捉えるため、中期経営計画を設計する難易度の上昇や妥当性の低下などが挙げられる。

・主たる先行研究は以下の通りである。
浅田一成・山本零(2016)「企業の中期経営計画に関する特性及び株主価値との関連性について-中期経営計画データを用いた実証分析-」『証券アナリストジャーナル』第54巻第5号、日本証券アナリスト協会。
「成長性の低い企業が中計を未達で終える可能性が高いため、現実的な目標設定をあまり重要視していない。」「株主価値への影響については、中計の開示によって株主価値を高めるには、単に高い目標を立てるのではなく、実現可能で投資家に納得感を与える目標を立てることが重要。」

中條祐介(2012)「中期経営計画の策定・開示に関するサーベイ・リサーチ」『横浜市立大学論叢社会科学系列』第63巻第1-3号、横浜市立大学学術研究会。
「中計の策定の目的では約97%の企業が「会社の目指す目標の設定」と回答」

林寿和(2014)「中期経営計画の開示行為に対する株式市場の反応の検証:投資家は中期経営計画のどこを評価しているのか」『企業会計』第66巻第7号、中央経済社。
「中計は投資家にとって重要な「非財務情報」を数多く含み、投資判断に影響を与えている可能性がある」

藤田志保(2021)「中期経営計画研究の現状と課題 : 戦略計画研究との比較・考察から」。
「調査対象の企業では具体的な財務目標・指標といったデータや研究が存在しないことから、企業がどのような指標を用いているのか全体像が分からない。戦略計画の場合では財務指標とともに非財務指標の有効性があるとして採用されているため、中計においても非財務指標について考慮する必要がある。」

山本剛史 (2023) 「中期経営計画は8割の企業が策定も、長期ビジョンと連動できている企業は約3割!策定状況や戦略・推進への課題が浮き彫りに。「2023年度 長期ビジョン・中期経営計画に関する企業アンケート調査」結果を発表」、株式会社タナベコンサルティンググループ。
「上場企業の9割以上で中計(3~5年)が策定され、その中の半数以上が経営幹部が中心となって策定されたものであった。中計の課題として目標数値を挙げているが具体的な戦略が不足していること、計画・ビジョンを定めているが推進できていないことが挙げられている。予測困難な時代だからこそ、企業の向かう先を示すビジョンの存在が求められる。​」

・私たちは、自己資本利益率(ROE)を用いて中期経営計画の目標達成度を把握することにした。自己資本利益率とは、企業の当期純利益に対する自己資本の割合をいう。自己資本利益率は、親会社株主に帰属する当期純利益÷((期首自己資本+期末自己資本)÷2)で算出される。なお、自己資本は、純資産合計-株式引受権-新株予約権-非支配株主持分で計算される。
私たちは、ROE について、中期経営計画の最終年度の目標値と実績値の期比較の他、経営計画初年度の前年度実績と中期経営計画最終年度実績の比較も行った。理由は、中期経営計画の目標値が低ければ、達成は容易であり、中期経営計画の目標水準も達成度に影響すると考えたためである。ROE の基準値には、伊藤レポートに記載されている8 %を用いた。なお、調査の限界として、計画は策定されただけでは意味がなく実践されなければ目標達成には至らないこと、企業の置かれた経営環境、市場により目標達成の難易度が異なること、新型コロナウイルス感染症の影響を排除できないことがある。私たちは、既に終了している2022年度、2023年度の中期経営計画を無作為に100社抽出し、2022年度または2023年度の中期経営計画の終了時点で掲げていたROEの目標値、その達成度別に振り分けて調査した。その結果、①8%以上という高い目標値を掲げているものの、その目標を未達成の企業(達成度が90%以上~100%未満または90%未満に該当する企業)が多いこと(50社)と、②伊藤レポートで掲げられたROEの目標水準である8%を下回る目標値を中期経営計画の策定段階から設定している企業が存在すること(18社)がわかった。

・私たちは最初、上記の②に着目し、本当に企業は中期経営計画策定に真剣に取り組もうとしているのか否かという素朴な疑問をもった。性善説に基づくと、企業は高い目標達成を目指し、企業価値の向上に取り組んでいるはずである。しかし、昨今、企業においても品質不祥事が多発しており、企業も所詮は人間の集合体に過ぎない。私たちは、企業の中には、コーポレート・ガバナンスコードにおいて中期経営計画の公開が要請されているので、IR 目的で仕方がなく中期経営計画を策定し、また経営目標達成を容易にするため、経営目標値を引き下げている企業があるのではないかという仮説(仮説1)を立てた。

・私たちは、この仮説1を検証するために私たちは、上場企業を中心として20社に対して企業インタビューを行なった。
石井食品株式会社、株式会社大本組、ヒラキ株式会社、株式会社クエスト、株式会社ミツバ、象印マホービン株式会社、日本電気株式会社、ウシオ電機株式会社、株式会社ダスキン、関西電力株式会社、ヤマハ株式会社、東海カーボン株式会社、株式会社タウンニュース社、サンフロンティア不動産株式会社、BIPROGY株式会社、東レ株式会社、ホーチキ株式会社、カルビー株式会社、社名未公開2社
(順不同)
ご協力頂いた企業の皆様に厚くお礼申し上げます。
インタビューの結果、ほんどの企業が企業目標の達成を目指して、中期経営計画を策定しており、IR目的で、目標を低く設定し、目標達成を優先していると疑われた企業はなく、残念ながら、仮説1は検証することができなかった。一方で、インタビューに応じて頂けた企業は、中期経営計画策定に真面目に取り組んでいるがゆえに、私たちのインタビューにも応じてくれた可能性が高く、インタビューによる調査の限界を感じざるを得なかった。

・次に、私たちは、①8%以上という高い目標値を掲げているものの、その目標を未達成の企業(達成度が90%以上~100%未満または90%未満に該当する企業)が多いこと(50社)に着目し、ほとんどの企業は経営目標の達成を目指して中期経営計画を策定しているのに結果が未達成になるのはなぜなのかを検討した。その要因は、経営者の実力、従業員の能力、環境変化、競合の存在等、要因は無限にあると思われる。その全ての要因を加味することはできないので、私たちは、中期経営計画の内容の「質」に注目することにした。計画自体が良い内容ではないと、よほどの幸運がない限り、実践しても成果は出ないはずである。経営目標が高く掲げ、かつ経営目標を達成している企業の中期経営計画の内容はどんな点が異なるのか、公開されている中期経営計画では限界があることは承知しつつ、経営目標が高くかつ目標を達成している企業の中期経営計画を精査した。その結果から、経営目標が高くかつ目標を達成している企業の中期経営計画には共通項がある感覚を持った。その感覚を形式知にできるのではないかと考え、同じようなモデルがないかをいろいろ調査したところ、日本経済新聞が主催している統合報告書アワードの審査基準が公開されており、同じく企業価値を増大させるという点で応用できるかと考え、中期経営計画の内容を事前チェックすることにより、内容の質を向上させれば、中期経営計画の終了時点で掲げていたROEの目標値の達成度は向上するという仮説2を策定した。

・良い中期経営計画の内容の「質」のポイントをチェック項目をまとめ、企業が事前にチェックすることができれば、日本企業の中期経営計画の質が向上が向上し、中期経営計画の目標達成度も向上するだろう。現時点では、以下のチェックリストの項目を考えている。
チェックリスト項目案(項目別に具体的な質問を用意する)
1. 計画は具体性があるか
2. 財務目標は現実性があるか
3. 市場・競争環境への対応について
4. コストと効率化の計画か
5. リスク管理と柔軟性
6. 投資・成長戦略の実現可能性
7. 人材戦略と組織体制
8. 顧客基盤の強化
9. ESGおよび持続可能性
10. 過去の実績との整合性
11. ガバナンスと透明性
12. 目標の妥当性

私たちが案としてまとめたチェックリストを、私たちインタビューに協力頂いた企業に送付してご意見を頂き、完成させる予定である。その上で、完成したチェックリストを使って、中期経営計画の目標達成度との相関を検証して、仮説2を検証する予定である。仮説2に基づき、中期経営計画の内容の質を事前チェックすることが可能となれば、日本企業の経営目標の達成度が向上し、ひいて日本経済の活性化にも結び付くと考える。

近年の論文
高見茂雄「中期経営計画が経営成果に及ぼす影響-大手化学メーカーを対象とした実証研究」
片岡洋一「戦略経営を支援する中期経営計画と管理会計」
前田陽「中期経営計画の策定および修正プロセスの研究 -マネジメントプロセス視点からのイトーヨーカ堂の事例を通じて-」
張蘊涵・安酸建二「中長期的な売上高目標がコスト変動に与える影響―中期経営計画上の売上高目標を用いた実証研究―」
張蘊涵・安酸 建二「中期経営計画で設定される利益目標をベンチマークとするコスト調整行動に関する実証研究」
藤田志保「中期経営計画研究の現状と課題 : 戦略計画研究との比較・考察から」
町田遼太、上田巧、妹尾剛好、横田絵理「日本企業における中期経営計画のコンフィギュレーションー質的比較分析(QCA)による探索的研究ー」

下記の研究報告大会に参加しました。
・インナー大会(日本学生経済ゼミナール関東大会)
・インター大会(日本学生経済ゼミナール全国大会)



インナー大会やインター大会は、ビジネスモデルコンテストの提案が多く、マーケティング等に比べると、私たちの研究は会計で「地味」で相性悪いのですが、残念ながら、両大会ともにあと1位足らず、決勝進出ができませんでした。インナー大会は1位しか決勝出場できませんが、結果2位、インター大会は2位まで決勝出場できるのですが、結果3位でした。悔しいです。

いよいよ最終戦アカウンティングコンペティションしかなくなりました。11月25日に発表されたアカウンティングコンペティション(会計学の研究発表大会)の学術的研究分野Aブロックの予選結果において、1位通過することができました。12月15日の決勝に向けて、必死に研究を進め、またプレゼンテーションも見直しています。
アカウンティングコンペティション(会計学の研究発表大会)

中期経営計画事前チェックリスト「PAMP」(Pre-CHECKLIST FOR ADVANCED Mid-TERM PLAN)の公開を中止しました。