TPP問答

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TPP問答(1/6)

(私)
タイ国の洪水も被害が甚大だ。友人も向こうに行っていて、御当地の人たちがなにより大変だけど、日本の企業も、特に自動車関連会社がたくさん行ってるから大変だ。

(飲み友)
それにしても東日本大震災といい、タイといい、本当に大変な災難つづきだな。連中(被災地近くにいる共通の友人たち)は幸い無事だったが、なかなか復興の速度が上がらず、この国に絶望感を感じる、って言ってたな。(取りあえずビールでいいか)

(私)
それでもYに紹介されて、小口だけど参加した例の水産会社、がんばっているらしい。ネットでみた。なんとか設備の復興と運転のための資金ができて、まあ3年後にはおいしい海産物を送ります、とあった。

(飲み友)
一人ひとりは本当にわずかな支援だけど、結構な人数の人たちが参加して、事業の再開ができてよかった。インターネットのお蔭だな。(ま、どもども、しばらくでした、っと)

 

TPP問答(2/6)

(飲み友)
何もかも大変だ。ところで、なんであんなに多くの日本企業、それも自動車会社がタイ国へ行ったか、知ってる?

(私)
あんなに行っていたとは知らなかった。賃金が安いんだろうな。

(飲み友)
大雑把にいえば、日本、たとえば横浜の最低賃金と上海のそれは10:1程度といわれている。バンコクはそれより低いらしい。しかしね、日本企業のタイ国進出の理由はそれだけではないんだよ。

(私)
そういえば、昨年夏に面白いことを言ってたな。「マーチ・ショック」だったっけ。

(飲み友)
うん。100万円を切った日産マーチが国内で販売された。それもタイ国で生産されたもので、みんなびっくりした。鋼板も現地調達さ。(熱燗下さい、それとふろふき大根二つ)

(私)
我が国の産業空洞化なんてマスコミは騒いでいたけど、あの時ASEANがどうってことも言ってたな。

(飲み友)
実はね、タイ国ってのはASEANの中心国で、日本とASEAN8か国との間にはEPA、経済連携協定が発効となっている。8か国とは、シンガポール、ラオス、ベトナム、ミャンマー、ブルネイ、マレーシア、タイ、カンボジアだ。

(私)
EPAとFTAだっけ、どう違うの?

(飲み友)
FTAは特定国や地域の間に、物品関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃を目的とする協定で、EPAはさらに貿易・投資の自由化・円滑化を促進し、規制の撤廃・各種経済制度の調和や協力等、幅広い経済関係強化を目的とする、とされているからFTAの拡大がEPA、というところだな。

(私)
なるほど。よく関税撤廃、なんて新聞にも出ている。おお、これだ、これだ。FTA:(自由貿易協定:Free Trade Agreement) それとEPA(経済連携協定:Economic Partnership Agreement)

(飲み友)
うん、だから日・フィリピンのEPAで向こうからの看護師受け入れなどが可能となった。お互いの国の事情からWIN・WINとなれば結構、ということだろう。様々な課題はあるが、これも現実だ。

(私)
自動車にもどるけど、なぜタイ国だっけ、賃金の他に・・。

(飲み友)
むろん、税の優遇もある。ある条件下では最高8年間の法人税ゼロもあるらしい。それと何といっても「累積」だな。

(私)
ルイセキって?

(飲み友)
協定を結ぶ国の原材料は輸出する国の原産とみなす、というルールさ。日本産の部品で生産された物が、ASEAN製品として認めてもらえるケースができてくる、というわけだ。

(私)
なるほど、で、ASEANの各国間では関税撤廃が原則だから、安く納入できる、ということだな。そうか、マーチ・ショックの時に言っていたASEANの意味がこれではっきりした。(熱燗2本と、栃尾二つ、おろしたっぷりに)

 

TPP問答(3/6)

(飲み友)
そういえば、政教関係云々の話の時に、日米修好通商条約の話をしていたね。

(私)
ああ、安政条約。1858年だ。我が国は米国との間に日米修好通商条約全14箇条、貿易章程7則を締結したんだが、その第8条が、実はタウンゼント・ハリスが挿入した「信教の自由」条項だったんだ。

飲み友)
そう、それ。「信教の自由」は今度聴くことにして、その貿易章程の第7則には関税の決まりがあって、両国の協議によってそれを決めたから、協定税率というんだ。輸出に関しては5%、輸入については5%から20%で日本にはそう不利ではなかったようだ。

(私)
しかし、関税自主権がなかったんだろう?

(飲み友)
まあ、されはそうだけど、問題はそれからさ。従価税は、現在はこれだけど、価格に例えば5%が関税。しかし安政条約の8年後、従量税が加えられた。量が同じで価格が上昇すれば関税はゼロに向かう。量にかかるからね。

(私)
幕末期にはインフレになった、という話もあるから、これは我が国とって不利だな。

(飲み友)
これが解消されて、関税自主権をもったのは日露戦争後さ。大変な苦労があったと思う。

(私)
協定関税から従量税、そして関税自主権から関税撤廃ということか。我が国の経済発展もさることながら、歴史上、保護貿易主義の経済大国なんてあるかね?

(飲み友)
最初は保護貿易で経済大国となる。しかし必ず自由貿易に転換する。経済大国が保護貿易では市場としての相手国の購買能力は向上せず、相手国の輸出を抑制すれば経済大国も立ち行かない。保護貿易の経済大国はそもそも矛盾なんだよ。

(私)
なるほどな。我が国が世界第2位の経済大国、今は第3位か、そうなって保護主義はそもそもあり得ない、ということか。

(飲み友)
経済大国は市場を開放し、自分たちの資産を海外に投資し、より低コストの生産を目指す。国内では高度な製品の開発と生産、ということになるだろうな。既製品を高コストで製造することはあり得ない。

 

TPP問答(4/6)

(私)
そうか。日本の個人資産が1400兆円とかいっても、目減りする一方で、何かおかしいな。

(飲み友)
うん、2007年に1542 兆円あったものが2011年では1474兆円だ。ちっとも増えていないどころか目減りの一方だ。新興国への投資など、チャンスはあると思うんだが、金融関連会社は手数料商売のみで、この資産を活かしていない。知恵がない。

(私)
銀行も利息より手数料が高い状況で、株価や投信もさっぱり勢いがない。ないどころか、まったくダメと聞くなあ。

(飲み友)
結局、我が国は経済大国としての自覚が足らん、ということだろうな。だから政策が生産者一辺倒で、消費者は二の次だ。むろん生産は国の根幹だが、新興国と競う内容を変えねば苦しくなるのは当然だ。

(私)
原材料や組み立てなどは海外に、より高度なコア製品・部品の製造が日本の製造業、ということか。そしてとにかく個人資産を確実に増やす投資を考えてもらいたいね。

 

TPP問答(5/6)

(飲み友)
ところで、TPP。朝から晩まで賛成・反対だ。

(私)
しかし、いま聴いた話では、ASEANとのEPAとかすでに10カ国以上の国々とFTA・EPAが発効となっている。もう議論の段階ではないのではないか?TPPは数カ国間でEPAをやろうとすることだね。

(飲み友)
そのとおり。我が国も参加しているAPECはそもそも貿易自由化を目指したものだった。そしてすでに2002年にはシンガポールと経済連携協定を締結し、今日では10カ国以上と締結している。なぜいまTPPに反対なのか、なぜ当時問題にならなかったのか、おそらくアメリカというのがキーワードかもしれないな、嫌米。

(私)
東アジア共同体は日本が中国に同化することでお話にならなかったが、TPPは国家の垣根があるということだな。現に日本の相手国が日本に同化などあり得ない。メキシコを見ればわかる。

(飲み友)
基本としてFTA・EPAと経済共同体は別物だとされている。共同体はその不可欠な要素として、共同体への主権の一部譲渡があると聞く。FTA・EPAはあくまで貿易の話で、国家間の垣根を前提としている。ここが大事だ。

(私) それと、ハブ・スポーク云々というのもあったね。

(飲み友)
うん。日本-メキシコはEPA、メキシコ-米国は北米自由貿易協定(NAFTA)が締結されている。この場合、メキシコがハブで、日本-メキシコ・メキシコ-米国はスポークというわけだ。

(私)
なるほど。

(飲み友)
まあ、学者の中にはそれらをスパゲッティの複雑なからみあいに譬えて、「スパゲッティ・ボール現象」と分析している人もあるらしい。

(私)
何事も課題はつきまとう。

(飲み友)
多くの経済連携協定は資本の移動を伴って、様々な国の得意分野が明らかになる可能性はあるだろうな。いづれにしても、このネット・ワークから孤立しての国家戦略はむつかしいだろう。

(私)
それならやはり、関税撤廃の方向に進んでいる世界の趨勢に対応するしかない。我が国だけが別行動では衰退するだけだな。

(飲み友)
賛成派は言っていることに迫力がないし、反対派はいつまでも輸出が増える増えない、の発展途上国論理ばかりだ。お互いにここを超越した自覚がないと、有益な議論にはならないな。

(私)
たしかに、追い越したあとの日本はさっぱりダメだ。経済連携協定やTPPで輸出が急に増える、などとする実績もないが、その中で生き延びて、現状維持を図るしかない。

(飲み友)
そうだよ。いま日本がTPPに参加しても、従来の構造では維持が精いっぱいだ。しかしそれでも我が国が市場を閉鎖しておいて成長する根拠は全くない。

(私)
もはやTPP参加は当然から義務、ということだね。

(飲み友)
とにかく、経済大国としての国の在り方を国家の要人は語ってほしいね。それと財務省の貿易統計を見ていると議論が空しく聞こえるほど、各国の経済連携協定は進んでいる。アメリカの中国政策、などといわなくても、現実にハブ・スポークで繋がっている。ここは経済大国としての日本を主張すべきだろう。

 

TPP問答(6/6)

(私)
でも、関税は数%だが、この「円安」で1ドル120円が76円では輸出業者は大変だ。為替も同時に考えないとどうしようもないな。

(飲み友)
この問題はまた別の機会に、ということにしよう。ただ、「強い円」を活かした投資なども課題だろうな。

(私)
農業や医療に不安がある、というのが反対論者の主張だが・・。

(飲み友)
これまでのやり方でも問題は山積だよ。現状ではさらに悪化する可能性が高い。とにかく占領軍が攻めて来る、なんていう発想でははじまらない。自虐的に過ぎる。

(私)
第一次世界大戦後の世界は国際協調の時代となったが、我が国は曲解された「皇国の道」「国体」を主張して、やがて自滅した。あの時の議論と同じ感じがする。

(飲み友)
そのとおりだよ。自由主義国として英米と共に歩めば軍縮も問題ではなかった。あのへんからおかしくなった。「皇道を四海に宣布」がいかにデタラメだったかが昭和戦前の歴史だ。

(私)
そして帝国憲法を曲解した「統帥権干犯論」「5・15」「天皇機関説排撃」「国体明徴運動」「2・26」、このすべてに昭和天皇は反対された。これらが帝国憲法に違背したものだったからだ。

(飲み友)
国際情勢を正しくとらえ、帝国憲法を遵守されたのが昭和天皇お一人だった、との評価はやはり正しいな。その昭和天皇の御代に生れたことに感謝してお開きとしよう。

―終わり―2011年